• 2024年11月10日
  • 2024年11月12日

アトピー性皮膚炎

この記事はアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024(日皮会誌:134(11),2741-2843,2024)にもとづいています。ガイドラインは医療従事者向けの内容ですが、「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」で検索すると無料で全文をダウンロードすることができます。

1.アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎とは、かゆみを伴う湿疹が悪くなったりよくなったりを繰り返す病気です。患者さんの頻度は、乳児から小学生までが10%前後、成人になると30歳代からゆっくり減少し50~60歳代で2.5%となります。しかしながら、最近では大人になっても治らなかったり、大人になって再度悪化するケースもあります。

2.アトピー性皮膚炎の病因

アトピー性皮膚炎の病因は、大きく2つに分けられます。

遺伝によるアトピー素因

遺伝的な要因によりアトピー性皮膚炎を発症しやすくなる場合もあります。これにはアトピー素因と呼ばれる体質が関与しています。アトピー素因とは、①家族歴・既往歴(気管支喘息,アレルギー性鼻炎,結膜炎,アトピー性皮膚炎のうちいずれか,あるいは複数の疾患),または② IgE 抗体を産生しやすい素因、と定義されています。

発症因子・悪化因子

アトピー性皮膚炎の発症と悪化に関わる要因として職場および日常生活環境における抗原や外的刺激への曝露(花粉や食物など)、ライフスタイルと温度や湿度といった環境因子(汗や乾燥などの刺激、睡眠不足や過労、ストレスなど)があります。

3.アトピー性皮膚炎では何がおきているのか

皮膚のバリア機能の低下による過敏>皮膚のバリア機能の低下とは、皮膚を保護する機能が脆弱である状態を指します。通常、皮膚の最も外側にある角層には油分の膜(細胞間脂質)が存在し、これが外部からの刺激を防ぎ、皮膚内部の水分が蒸発するのを防ぐ役割を果たしています。ところが、アトピー性皮膚炎の患者の皮膚ではこの油分が不足し、日常生活の刺激に対して敏感になり、皮膚が炎症を起こしやすくなるのです。

炎症の発生>過敏な皮膚に刺激が加わると、表皮細胞から様々な物質が産生されて表皮の下にある真皮に炎症を起こします。その結果、表皮の肥厚(がさがさに厚ぼったくなること)も起こります。

かゆみの発生>炎症によって、かゆみを引き起こす物質が産生され皮膚の感覚神経に作用して、かゆみが生じます。

4.アトピー性皮膚炎の症状

アトピー性皮膚炎は乳児期~学童期のいわゆる小児期に発症することが多い病気です。小児期の皮膚は機能が十分に発達しておらず、成人に比べてバリア機能が低いため少ない刺激でも異常が起きやすいといわれているためです。大人になるにつれ症状が慢性化し治りにくくなる傾向がありますので、早い段階で治療を開始し、病気をコントロールすることが大切です。また、アトピー性皮膚炎の湿疹が出やすい部位は、年齢によって異なります。

5.アトピー性皮膚炎の診断と検査

アトピー性皮膚炎の検査には「血液検査」と「皮膚検査」があります。アトピー性皮膚炎の定義ではアレルギーの存在は必須ではないのですが、IgE 抗体を産生しやすい素因の有無を確認するための血液検査を行っておくことをおすすめします。皮膚検査は、悪化因子を特定する必要があると判断したときに行います。

血液検査:アトピー素因や病勢の判断材料になります。アトピー性皮膚炎患者ではダニ、ハウスダスト、花粉、真菌、食物など複数の特異的IgE値が高値となるものの、実際にはアレルギー症状との因果関係がないことがあります(*)

皮膚検査:特定の物質に対するアレルギー反応を持っているか確認するための検査です。

また、アトピー性皮膚炎の重症度について専門的には「皮疹の面積」と「炎症の強さ」で評価します。およその目安は以下のように考えます。


〇軽症:面積にかかわらず,軽度の皮疹(赤み、乾燥など)だけがみられる
〇中等症:強い炎症を伴う皮疹(かき壊し、硬い皮疹など)が体表面積の10% 未満にみられる
〇重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%以上、30%未満にみられる
〇最重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30% 以上にみられる

6.アトピー性皮膚炎の治療

アトピー性皮膚炎の治療は、研究が進むにつれて少しずつ選択肢が増えています。北戸田アルプス皮フ科では、患者さんの症状や年齢、生活環境に合わせた治療法を一緒に検討させていただきます。

6‐1.アトピー性皮膚炎の治療「外用療法」

アトピー性皮膚炎の外用療法は、ステロイド外用薬や非ステロイド性抗炎症薬などの塗布が一般的です。これらの外用薬によって炎症を抑制し、かゆみや赤みを緩和します。

外用療法に使用する薬剤は、患者様の年齢や症状によって最適な選択・使用方法が異なるため、皮膚科専門医在籍の北戸田アルプス皮フ科までご相談ください。

・アトピー性皮膚炎のステロイド外用薬とは?

ステロイドとは、もともと人の体内の副腎という臓器でつくられる「副腎皮質ホルモン」のことです。これを人工的に合成して作った塗り薬がステロイド外用薬で、ランクによって5段階に分けられます。一般にストロンゲスト(I 群),ベリーストロング(II 群),ストロング(III群),ミディアム(IV 群),ウィーク(V 群)の5 段階に分類されます。

ステロイド外用薬は、皮脂腺が多く皮膚が薄い部位ほど吸収率が高くなります。そのため、ステロイド外用薬を使用する患部によって、ランクの異なる塗り薬を使い分けることが大切です。また、子供は皮膚が薄いため吸収が良く効果がありますが、副作用も現れやすくなるので、成人と比べて子供に用いるのは主にミディアムクラスです。また顔や首は皮膚が薄いため吸収が良いので、通常は他の部位よりも1ランク弱いステロイド剤を処方することが多いです。現在の症状に対してどのランクのステロイド外用薬を使用するかは医師の指示にしたがってください。

ステロイド外用薬の副作用は正しい使用方法で最小限に抑えることができるので、過剰に心配する必要はありません。医師の指示に従い、適切な量を十分に塗布し、指示された期間続けて使用することが重要です。副作用を感じた場合は直ちに皮膚科を受診してください。

・アトピー性皮膚炎のステロイド以外の外用薬とは?

ステロイド外用薬以外の外用薬(塗り薬)としては、「ブイタマークリーム」・「プロトピック軟膏」・「コレクチム軟膏」・「モイゼルト軟膏」などがあります。ブイタマークリームはAhR調整薬であり、12歳以上で使用できます。プロトピック軟膏は免疫抑制作用があり、特に顔や皮膚の薄い首のかゆみや赤みを和らげます。コレクチム軟膏は免疫調整作用があり、主にステロイド外用薬からの切り替えとして使用されます。モイゼルト軟膏は、生後3ヶ月の赤ちゃんから使用可能で、皮膚バリアの改善効果があります。

・プロアクティブ療法とは?

プロアクティブ(proactive)療法は、再燃を繰り返す皮疹に対して、ステロイド外用薬などを用いた治療によって寛解導入した後に、保湿外用薬によるスキンケアに加え、ステロイド外用薬とその他の外用薬を組み合わせながら間歇的に(ステロイドは週2回など)塗布し、寛解状態を維持する治療法です。

6‐2.アトピー性皮膚炎の治療「全身療法」

・アトピー性皮膚炎の全身療法:「生物学的製剤(注射薬)」とは?

生物学的製剤はアトピー性皮膚炎に適応を有する注射の薬です。これまでアトピー性皮膚炎の治療を受けていて十分な効果を感じられていない方にとって効果が大きいですが、一般的なステロイド外用薬よりも高額な治療費がかかるため、成人ではほとんどの場合高額療養費制度の対象となります。

生物学的製剤には、デュピクセント、ミチーガ、アドトラーザ、イブグリースがあります。それぞれ投与対象年齢、使用方法、効果と副作用が異なります。

小児アトピー性皮膚炎でお悩みの患者様は、一度ご相談ください。

・アトピー性皮膚炎の全身療法:「JAK阻害薬(内服薬)」とは?

JAK阻害薬とは、サイトカインの細胞内シグナル伝達を阻害してアトピー性皮膚炎の炎症を抑える内服薬です。JAK阻害薬には、リンヴォック、オルミエント、サイバインコがあります。それぞれ投与対象年齢、使用方法、効果と副作用が異なります。内服開始早期からかゆみや皮膚炎の改善が期待されますが、感染症発症のリスクがあるため投与開始前の検査を行い、医師の指導を受けながら使用する必要があります。

6‐3.アトピー性皮膚炎のその他の治療

シクロスポリンの内服、経口ステロイドの内服、紫外線療法、内服抗ヒスタミン薬、漢方薬などがその他の治療として選択されることがあります。

7.アトピー性皮膚炎の治療の日常生活での注意点

アトピー性皮膚炎の日常生活での注意点において、最も重要なのはスキンケアと悪化因子対策です。

7‐1.アトピー性皮膚炎患者のスキンケア

アトピー性皮膚炎患者は皮膚が乾燥している状態で炎症がおきているため、見た目に乾燥が分からなくても全身に保湿剤を塗布する必要があります。しかしながら、現時点においてアトピー性皮膚炎の発症予防を目的とした新生児期からの保湿剤外用は一概にはすすめられていません。

通常は皮膚の清潔には入浴・シャワー浴を行い、必要に応じて適切な保湿・保護剤や抗炎症外用薬を使用します。入浴時の温度は38℃~40℃に設定し、「石鹸」の使用は皮膚の状態によって使用を最小限にとどめたり、積極的に使用したりすることがあります。

一般的にはできるだけ低刺激性で添加物が少ない石鹸・洗浄剤を選んでいただくと良いでしょう。

7‐2.アトピー性皮膚炎の悪化因子対策と「掃除」

アトピー性皮膚炎を悪化させない予防策として、個々の患者の状況に応じた悪化因子対策も重要となります。その1例としてアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024においては、問診や血液検査などからダニ抗原が皮疹の悪化に関与していることが疑われる患者に対しては、居住環境中のダニ抗原を減らす対策を行うことを考慮してもよい、とされています。

アトピー性皮膚炎についてさらに詳しい内容を知りたい方は、下記リンク(日本皮膚科学会の皮膚科Q&A)をご参照ください。https://www.dermatol.or.jp/qa/qa1/index.html

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